自覚

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 藤原さんは俺の向かいに座る。  すぐに店員がオーダーを取りに来る。 「俺はもう注文したんで。」 「アメリカン。」  藤原さんがそういうと、店員は静かにテーブルを離れる。 「仕事は大丈夫だったのか?」 「はい。高校生のところへ行った帰りでした。」 「そうか、おまえが担当してるんだってな。藤村から聞いたよ。」  藤原さんの声は穏やかで俺の緊張は少し和らぐ。 「藤原さんのほうは仕事はいいんですか?」  緊張が声に出ないよう気を付けて声を出す。   「ああ、俺は大丈夫だ。」 「こっちに戻ったんですか?」 「いや、そういう訳じゃない。」    別々に注文したコーヒーが一緒に運ばれてくる。  ソーサーに乗ったコーヒーカップか小さな音を立ててテーブルに置かれる。緊張の所為か、日ごろ気にしない日常の小さな音が妙に気になってしまう。    店員がテーブルを離れるのを待って藤原さんが再び話し始める。 「答えは準備できたか?」  藤原さんは躊躇なく切り出してきた。  俺は一瞬息を飲む。動揺を隠すためにコーヒーカップを持ち上げてゆっくりと口へ運ぶ。そして同じようにゆっくりと元あった場所へ戻す。手が震えていないか心配になる。 「疑う余地がありましたか?」  正直、それに対する答えは何一つ準備で来ていなかった。考えようとしても頭が上手く働かずそのままここへきてしまった。    けれど、思ったよりもマシな返答が出来たと思う。これも仕事柄なんだろうか、余裕のない状況でも妙に切り返しが上手くなってしまっている。 「どうして、連絡してこなかった?いや、どうして、俺に取り合わなかった?」  藤原さんの声は穏やかだ。けれど、表情は真剣だ。  あのころは言葉にするのも恐かった。だからただ逃げた。  今も言葉するには勇気が要った。けれど、俺もそれなりに成長したのだろう。時間が経ったせいもあるだろう。ゆっくりと息を吸ってそれから落ち着いて応える。 「恐かったんですよ。現実を受け入れるのが。」
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