焦燥

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 家に帰るとマナトはまだ帰ってない。いつもの事だ。仕事柄午後から夜にかけて忙しいのは仕方ない。    俺は冷蔵庫を開けて物色するも、とても料理を作る気にはならない。夕食は残りものとインスタントですませることにしよう。平日は一緒に食事を取れる事の方が珍しい。電話してみようかな、とも思うけれどまたタカヤ達につつかれても可哀想だからな。  テレビをつけて居間のテーブルに食事を運ぶ。テーブルの隅に置かれたノートに目が停まる。 マナトが歌詞を書いてるノートだ。なんとなく勝手に見てはいけないような気がしたけれど、でも・・・確かこの前新しいのを書いたとかなんとか・・・。  っていうか・・・今回も俺に向けてなんだろうか・・・なんてちょっと期待したりとか。  そっとページを開く。聴きなれたフレーズが並んでいる。すごいな、マナト・・・ほんとに自分で書いてんだ。 “なんだ そんなことって君は笑うけど  俺には 一大事だったりするんだ  君の笑顔が好きだけど  俺にだけ向けてほしいって  わがままだってわかってるけど  それが本心で  ああ でも いいんだ  どうだって  君さえ傍にいてくれるなら  そのままで ただ そうしていて“  ・・・。  そこまで呼んで唾を飲み込む。 やっぱ、さすがに、照れ臭い。自分が赤面しているのが分かる。  あいつはこれを歌う気なんだろうか。口の中の食べ物が喉を上手く通り抜けてくれない。  俺はとても全部読むことができず、ノートを元あった場所に戻した。  まあ、メロディが付けば聞こえ方も変わるのだろうけど。  ったく、普段そんなこと言わねえ癖に・・・なんなんだ。 いや、言われても困るけど。  マナトも俺も愛を語るタイプじゃない。  その点については合うというか、女の子と付き合っているよりも楽ではある。マナトといると女の子相手ならばいろいろ言葉や態度に出さなければならないという努力が全く必要ない。    携帯が鳴る。タイミング良くマナトからメールだ。残業で遅くなるという連絡だ。  最近忙しそうだよな。仕事はなかなか順調らしいし、タカヤはあれでけっこういい上司らしい。
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