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始業時間までまだあるので、喫煙ルームへ向かう。誰もいない喫煙ルームでタバコに火を付ける。
タカヤの煙草の匂い。
今までそんなに気になったことなかったのに、昨日は匂いが付くくらい傍に居たってことか。
仕事だよ。だいたい、マナトには俺がいるんだしと思い直す。それに、タカヤだとは限らない。もう一人のセイジさんって人かもしれないし。仕事で行った先でついたのかもしれないし。
タカヤの姿が脳裏に浮かぶ。俺の中のタカヤは学生の時のままだ。マナトに言い寄ったりするなよと、頭の中のタカヤに睨みをきかせる。
自分でも馬鹿だとわかってる。こんなことくらいで、わかってはいるけれど感情が上手くコントロールできずに嫌な気持ちが収まってくれない。俺は煙草を大きく吸い込み。ふーっと吐きだす。
喫煙ルームの扉があいたので見ると先輩だった。
「おまえ、朝っぱらからしけた面してたばこ吸うなよ。」
「あ、おはようございます。」
「なんかあったのか、ここんとこ元気だと思ったら、女と喧嘩でもしたか?」
「え・・・あ、いや。そんなんじゃないですよ。」
喧嘩の方がましだ。
「じゃあ、なんだ?」
「なんでもないです。今日行くことになってる取引先の担当がちょっと苦手なんですよ。」
「ふーん。じゃ、順調なんだな。」
先輩はつまらなそうだ。
「なんでつまらなそうなんですか?」
「いや、幸せそうでなにより。」
「別にそんなんじゃありませんよ。」
変なとこ鋭いんだこの人は。
「そろそろ紹介しろよ。」
「え・・・。」
「おまえの彼女、一回くらい会わせてくれてもいいだろ?結婚とかは考えてないのか?」
「いや、その・・・っていうか、先輩。人の世話やいてないで自分の相手さがしてくださいよ。」
「だからさ、そのおまえの彼女の友達とか紹介してくれよ。」
・・・それは無理だ。
「会わせませんよ。」
「えー、ケチっ。」
「ケチで結構です。」
俺はこれ以上追及されては困るので、席を立つ。
自分のデスクに戻って仕事の準備に掛る。結婚・・・。そっか、普通なら結婚とか考えるんだよな。マナトが女なら・・・考えたこともなかったけど、でもこの先ずっと一緒に居るんなら・・・。俺達はどうなるんだろう。
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