焦燥

4/7
前へ
/65ページ
次へ
 始業時間までまだあるので、喫煙ルームへ向かう。誰もいない喫煙ルームでタバコに火を付ける。  タカヤの煙草の匂い。  今までそんなに気になったことなかったのに、昨日は匂いが付くくらい傍に居たってことか。  仕事だよ。だいたい、マナトには俺がいるんだしと思い直す。それに、タカヤだとは限らない。もう一人のセイジさんって人かもしれないし。仕事で行った先でついたのかもしれないし。  タカヤの姿が脳裏に浮かぶ。俺の中のタカヤは学生の時のままだ。マナトに言い寄ったりするなよと、頭の中のタカヤに睨みをきかせる。  自分でも馬鹿だとわかってる。こんなことくらいで、わかってはいるけれど感情が上手くコントロールできずに嫌な気持ちが収まってくれない。俺は煙草を大きく吸い込み。ふーっと吐きだす。  喫煙ルームの扉があいたので見ると先輩だった。 「おまえ、朝っぱらからしけた面してたばこ吸うなよ。」 「あ、おはようございます。」 「なんかあったのか、ここんとこ元気だと思ったら、女と喧嘩でもしたか?」 「え・・・あ、いや。そんなんじゃないですよ。」 喧嘩の方がましだ。 「じゃあ、なんだ?」 「なんでもないです。今日行くことになってる取引先の担当がちょっと苦手なんですよ。」 「ふーん。じゃ、順調なんだな。」 先輩はつまらなそうだ。 「なんでつまらなそうなんですか?」 「いや、幸せそうでなにより。」 「別にそんなんじゃありませんよ。」 変なとこ鋭いんだこの人は。 「そろそろ紹介しろよ。」 「え・・・。」 「おまえの彼女、一回くらい会わせてくれてもいいだろ?結婚とかは考えてないのか?」 「いや、その・・・っていうか、先輩。人の世話やいてないで自分の相手さがしてくださいよ。」 「だからさ、そのおまえの彼女の友達とか紹介してくれよ。」 ・・・それは無理だ。 「会わせませんよ。」 「えー、ケチっ。」 「ケチで結構です。」  俺はこれ以上追及されては困るので、席を立つ。  自分のデスクに戻って仕事の準備に掛る。結婚・・・。そっか、普通なら結婚とか考えるんだよな。マナトが女なら・・・考えたこともなかったけど、でもこの先ずっと一緒に居るんなら・・・。俺達はどうなるんだろう。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

147人が本棚に入れています
本棚に追加