自覚

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 電車を降りて駅の改札を出て目に留まったのは黒いセダン。駅のロータリーに停まっているのは恐らくさっき職場近くで見た車だ。不自然にならないようにポケットから携帯を取り出しながら今度は近くまで行って立ち止まる。職場の近くでみた黒っぽいセダン。後ろ向きに止まっている。    さっきは気にしなかったけれど、そういえばこのナンバーの並び・・・警察が使ってるナンバーの様な気がする。  嫌な予感。何かあったのだろうか。こういう時の感はよく当たる。  大丈夫だ。気にせずに通り過ぎよう。何が大丈夫なのかわからないけれど、自分にそう言い聞かせて車の横を通り過ぎる。  車の横を通り過ぎたところで、お決まりのように背後で車のドアが開く音がした。人が降りる気配を背中に感じる。   「マナト。」  自分の名前が呼ばれた。  え・・・。  俺の名前を呼んだその声に聞き覚えがあった。  懐かしい声。  頭の片隅に一瞬の迷いがあった。けれど、身体は勝手に動いて俺は振り返っていた。  スーツ姿を視界に捕える。  ああ。  やっぱり。      相手を見据えたまま、相手もこちらを見詰めたまま長い沈黙があった。実際にどれくらいの時間なのかはわからないけれど。そう感じた。  沈黙を破ったのは俺。  何も考える余裕がなかった。ただ口が勝手に動いていた。 「・・・・・・・藤原さん・・・。」 「マナト。」    声の主はもう一度俺の名前を呼んでゆっくりと近づいて来る。  俺はなぜか、少し後ずさってしまった。  藤原さんは俺の前で足を止める。  以前と同じスーツ姿。俺は動けないままじっと藤原さんを見詰める。    少し老けたなと暢気な感想が混乱した頭の隅を掠める。当然と言えば当然か、何年も会ってないんだ。   「スーツか。すっかり社会人だな」  藤原さんは穏やかな声でそういったけれど、表情は少し硬い。  俺は言葉が出ない。 「そんなに驚いたか?職場の近くで気が付いてたろ。」    昔と同じぶっきらぼうな話し方。 「・・・いえ・・・、気にはなりましたけど気付いては・・・。急いでて・・・。」  やっとそう言えた。
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