自覚

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 藤原さんはじっと俺の顔を見ていた。 「あの頃の俺は藤原さん無しでは立っていられなかった。自分で思っている何倍も藤原さんに依存してた。けど、そう遠くない日に藤原さんを失う日が来るって覚悟してたんです。だから、あの日振り返らなかった。戻らなかった。電話にもでなかった。」  胸の奥が鈍く痛む。  過去のことであっても、古傷に触れるのは気分のいいのもではない。 「おまえを傷つけたんだな。」 「ある意味では、でもそれは俺も同じです。俺も藤原さんを傷つけた。藤原さんを追い込んだのは俺だった。」 「追い込んだ?」 「俺の所為で異動になったんでしょう?」 それまで落ち着いていた藤原さんの表情が変わる。 「・・・知って・・・?」 「いいえ。馬鹿なことに、最近まで気が付きませんでした。あの頃は藤原さんを失ったことで頭がいっぱいで。タカヤさんもユズルも気が付いていたのに。」  俺は苦笑する。 「そんなことで、俺は傷付いてなんかいない。俺が傷付いたとしたら」  藤原さんは一度そこで言葉を切った。  言葉を続けるべきか躊躇うように視線を落とす。  そして弱弱しい視線を上げる。あまり見せない表情だ。もともと感情が表情に出ないタイプというか、無骨な人だ。 「俺が傷付いたとしたら、あの後どんなに待ってもお前から一度も連絡がなかったことだ。」    その言葉がじんわりと胸に響く。胸の奥に淀んでいた何かがゆっくりと溶けていくのがわかる。長い間そこに滞っていた何か。 「すみません。」  そう言ってしまった。 「どうして俺を探さなかった?」  すがるような藤原さんの表情。  探されることを望んでいたのだと初めて知る。 「恐くて。ただ、それだけです。」  すれ違っていたのかもしれないと今さら気が付いて戸惑ってしまう。 「なにが・・・」 「だから・・・藤原さんには俺以外の将来があったでしょう。」  藤原さんの言葉を遮る。ずっと言えなかったこと。知っていたけれど・・・。 「・・・おまえ・・・。」    藤原さんの表情が少し険しくなる。
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