自覚

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「俺は仮にも調査をしていた人間ですよ。気が付いてないと思ってたんですか・・・。」    今度は俺が視線を落とす。飲み掛けのコーヒー。黒い液体はどんなに見詰めてもその奥は見えないのに。 「その時が来たんだと思いました。だからそれを受け入れたんです。」  テーブルの上に置かれた藤原さんの左手の薬指に目をやる。 「そうだったのか。」 藤原さんは一呼吸置いてそう答えた。俺の視線には気が付いたのかどうかわからない。 俺達の会話が途切れたのを見計らったように店員が閉店が近いことを告げに来た。 店を出る。そんなに長居をしたつもりはなかったけれど、10時になろうとしていた。  「話の続きはまた今度にしよう。送ってくよ。」    これ以上話すことはないと思うけれど、藤原さん側からすれば言いたいことがあるのだろうか。それならば俺には聞く義務があるんだろうか。 藤原さんが車で送ると言う。どうしようか迷ったけれど、うまく断る言葉が見つからず藤原さんの隣を歩く。 「高校生をみるようになって、藤原さんがどれだけ大変だったか身に染みました。」 藤原さんはふふっと笑う。昔と変わらない笑い方だ。藤原さんが笑ったことで俺達の間の空気が急に和む。 「わかってもらえてよかったよ。そうか、おまえが俺と同じ仕事をしてるんだな。」 藤原さんの声にさっきまでの緊張はない。 「俺は手のかかる子供だったでしょう。」 俺も雰囲気に流されて穏やかに話す。 「ああ、ほんとに。いつもおまえの心配ばかりしてたよ。タカヤやユズルは心配しなくてよかったから、余計な。」 「高校生のところに行くたび、昔の自分がどれだけ酷かったか思い知って申し訳なくなります。」 藤原さんはさっきよりも楽しそうにくすくすと笑う。 近くのコインパーキングにこの前と同じ黒いセダンが停まっている。助手席に乗り込んで藤原さんの横顔を眺める。なつかしい光景が重なる。いつもこの席でドキドキしながらその横顔を見てた。
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