自覚

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 早足にアパートへ向かう。  いつの間にか、ネクタイが緩められてシャツのボタンがいくつか外されてる。  部屋に着くまでに乱れを整える。  ドアを開ける前に大きく深呼吸をして、落ち着いてドアを開ける。 「ただいま。」 「おかえり。」  ユズルは風呂から出たところで、濡れた髪をタオルで拭きながらビールを煽っている。 「ユズル。」 「ん?」 横目に俺を見る。  ごめん。  そう心の中で詫びる。  そばへ寄ってそっと唇を寄せる。 「なに?」 どうしたんだ、とでも言いたげに俺を見る。 「なんでもない。」 「なんだよ。」  ユズルはおかしそうにくったくなく笑う。この笑顔に何度救われてきたか。愛おしさが込み上げて背徳感が増す。 「今日は高校生のとことへ寄って来たんだ。」  誤魔化すように言葉を並べる自分にズルさを感じる。 「そうか。どう?俺達の後輩は上手くやってる?」 「うん。みんないい子だよ。そういえば、俺達けっこう有名になってるって言ったっけ?」 ほんとはこんな穏やかに話をしている場合でもないのかもしれないけれど、ユズルの存在は俺を本来居るべき場所に戻してくれる。  ユズルが真実だと思える。 「有名?」 「うん。タカヤとユズルとマナト、黄金時代だって。」 「なんだそれは。」 ユズルは冗談だろっと笑い飛ばす。 「だいぶ色が付いちゃってる話がいっぱいあってさ。今日も女の子がその話ししてた。」 「ふうん。高校生はそういうの好きそうだな。今も女の子は一人?」 「うん、危ないからね。」 「マナトは憧れの的ってわけか。」 「俺がマナトだってことは知らないよ。」 「そうなのか?」 「うん。俺とタカヤさんがOBだってことは知ってるけど、タカヤとマナトだってことは伏せてあるから。」 「へえ、なんか面倒だな。」 「当時のこと聞かれても言えないこともあるし。」 「そりゃまあ、そうか。」 「ユズルはイケメンだから会ってみたいってさ。」 「誰だそんなこと言ったの。」 ユズルは困った顔をする。 「そんなこと言うのは一人しかいないけどね。」 「藤村か。」 「ユズルは男から見てもイケメンだから。」 「それはどーも。」 呆れ顔で冷蔵庫からビールを取り出すと俺にも1本投げてくれる。
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