自覚2

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 電車に揺られながらぼんやりと車窓を流れる景色を眺めていた。  見慣れた街並み。学生のころからよく使っている線だ。    学生時代も調査であちこち走り回っていた。この先にある乗り換えの駅でよくメンバーと待ち合わせをしたっけ。ユズルはよく構内にあるコーヒーショップでコーヒー以外のものを、主にジュースを飲みながら俺が来るのを待っていた。コーヒーショップに喧嘩でも売っているのかと聞いたことがあった。  藤村さんに報告を終えて事務所に戻る途中めずらしくそんな昔のことを思い出していた。  やっと今の仕事と生活にも少し慣れてきた。  最初はどうなるかと思ったけれど今のところなんとかこなしている。とは言ってもまだまだ成果がでているとはとても言えない準備段階だが。  それにしても社会人としては大した経験もない俺に本当に責任者なんて役が務まるものなのか全く自信がなかったのだが・・・  事務所の立ち上げからずっと職場とアパートの往復で仕事漬けの日々。  仕事が好きかと言われれば嫌いではないと思うけれど、周りが思うほど俺は仕事が好きなわけでもないと思う。おそらく他に興味を持てるものがないからなのだけれど。    無意識にため息が出たことに気が付く。  こんな風に物思いふけるなんていつ振りだろう。気が付きもしなかったけれど必死だったんだな俺。  仕事以外のことで考え事をしたのはいつだったか。私生活は完全に崩壊してる。  事務所に戻るとセイジが出掛けるところだった。 「外回ってそのまま帰りますけど、何かありますか?」  セイジがすれ違い様に言う。 「ああ。いや、進展はあったか?」 「はい、少し見えてきました。今から裏取って来るので、明日報告します。」 「わかった。気を付けてな。いってらっしゃい。」 セイジの肩をぽんっと叩く。 「いってきます。」 セイジは笑顔で出て行く。セイジの背中を見送りながら、やはり多少落ち着いてきたのだなと改めて思う。  セイジもすっかり仕事が板に着いてきた。俺やマナトと違って最初のころは慣れない調査に戸惑ってたところがあったけれど、覚えも勘もいい。
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