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「ビールどれにする?」
「一番安いやつ。」
「これマズイから、こっちな。」
「ユズル何食いたい?」
「えっとな、さしみ。」
「無理。」
「ケチ。」
「食費掛るんだから、頼むよ。」
「へいへい。じゃあ、鶏肉と豚肉ならよろしいでしょうか、マナトさん。」
「そうしてください。」
「あ、コーヒー切れてたな。見てくるわ。」
ユズルは一人でフラフラとどこかへ歩いて行った。
二人で暮らすようになって何が問題かというと、二人とも大して料理ができないということだ。
ユズルはカフェバーでバイトをしていたし、俺は基本鍵っ子でどちらも少しくらいは料理ができてもよさそうなものなのに作れるモノと言ったら、野菜炒め程度。
さすがに料理の本を買ってみたりして俺は真摯に取り組んでいるのだが、相方さんはというと、これがさっぱり。俺の作ったものをあれこれ批評をなさるのだが、ご本人はほとんど台所に立たない。
代わりに後片付けはしてくれるけれど。けれど、俺達の生活はこの上なく順調だ。
ユズルがコーヒーの瓶を持って戻ってくる。ユズルはほかに切らしていたものがないか考えている。俺はそんなユズルについつい魅入ってしまう。とにかく、ユズルが傍らに居てくれることがまだ新鮮でうれしい。
「ん?」
ユズルが俺の視線に気がつく。
俺は首を振る。
「なに?」
ユズルはキョトンとした顔で聞き返す。
「なんでも。」
「なんだよ。」
「なんでもない。」
「変なやつだな。」
帰り途、傘をさして歩く。傘を叩く雨の音は徐々に強くなっている。
「雨、ひどくなってきたな。」
ユズルが言う。
「急いだ方がいいね。」
歩く速度を速める。
傘をさしていても、足下はもう膝まで濡れている。
スーパーまでは歩いて15分の距離。荷物があるので走る訳にもいかず、家に戻ったころには腕も肩もびしょびしょだった。
「あー、参ったな。」
部屋に入るなりユズルが言う。
「ほんと、出る時は大したことなかったのに。」
「ったく、着替えねえと。」
ユズルがタオルを投げて寄こす。
着替えると言って服を脱ぎ始めたユズルを後ろから抱き締める。
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