147人が本棚に入れています
本棚に追加
「歌うの?」
「ん?うん。そう、さいきん歌ってなかったから。」
「そっか、じゃあ、俺も久々に聴きに行こうかな。」
「来てくれるの?」
「ああ、俺はおまえのファンだからな。」
「ありがとうございます。ファンの為に歌います。心を込めて。」
「いい歌だよな。あの曲。」
「ん?」
「“呼び声”と“WALK’N”」
ユズルは立ち上がって奥から何かを持って戻ってくる。
持ってきたものを俺の方へ差し出す。
それを見て俺は唖然とした。俺がアツキさんと出したCDだ。
「・・・これ。」
「買ったんだ。ファンだからな。」
ユズルは恥ずかしそうにはにかむ。
「・・・いつ?」
「いつだったかな。ライブも見に行ってた。」
「・・・ユズル、ほんとに?」
「ああ。」
俺はあまりの嬉しさに目頭が熱くなる。
「ばか・・・だから、泣くなよ」
ユズルの顔がくしゃっとうれしそうに歪む。
ああ、もう・・・なんて幸せなんだろう。
俺は思わずユズルを抱きしめる。
「ユズル・・・今度絶対聴きに来て。」
「・・・ああ、絶対行くよ。楽しみにしてる。」
翌週に仕事の合間を見て、アツキさんと待ち合わせ。ライブハウスの中にあるスタジオを訪れる。アツキさんはまだ来ていない。
俺は最近歌ってなかったので、一人でCDの伴奏に合わせて声を出す。
2曲目の途中で、アツキさんが入ってきた。俺はそのまま歌う。アツキさんも何も言わず、俺の歌を聞いている。歌い終わると、アツキさんは拍手をくれる。
「サラリーマン丸出しのスーツ姿で歌ってるのも面白いな。今度その格好でステージ立てよ。」
アツキさんはおかしそうに俺を見る。
「仕事中なんで、しかたないでしょう。」
「マナトも立派になったもんだ。おまえのスーツ姿を拝めるとは俺は嬉しいぜ。」
「そうですか?」
「ああ、おまえはすぐ危ないことに首を突っ込むから、心配したもんだ。」
それに関しては、仕事なんで今も一向に変わっていませんが・・・申し訳ない。
「いろいろご心配をお掛けしました。今思うと自分でもかなり危なっかしいやつだったと思いますよ。」
「おお、成長したんだな。おまえも。」
「まあ、人並みに歳はとってますんで。」
「そうかそうか。」
アツキさんは満足そうにいうと、上着のポケットからCDを取り出してデッキにセットする。
最初のコメントを投稿しよう!