同棲

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「歌うの?」 「ん?うん。そう、さいきん歌ってなかったから。」 「そっか、じゃあ、俺も久々に聴きに行こうかな。」 「来てくれるの?」 「ああ、俺はおまえのファンだからな。」 「ありがとうございます。ファンの為に歌います。心を込めて。」 「いい歌だよな。あの曲。」 「ん?」 「“呼び声”と“WALK’N”」 ユズルは立ち上がって奥から何かを持って戻ってくる。 持ってきたものを俺の方へ差し出す。 それを見て俺は唖然とした。俺がアツキさんと出したCDだ。 「・・・これ。」 「買ったんだ。ファンだからな。」 ユズルは恥ずかしそうにはにかむ。 「・・・いつ?」 「いつだったかな。ライブも見に行ってた。」 「・・・ユズル、ほんとに?」 「ああ。」 俺はあまりの嬉しさに目頭が熱くなる。 「ばか・・・だから、泣くなよ」 ユズルの顔がくしゃっとうれしそうに歪む。 ああ、もう・・・なんて幸せなんだろう。 俺は思わずユズルを抱きしめる。 「ユズル・・・今度絶対聴きに来て。」 「・・・ああ、絶対行くよ。楽しみにしてる。」 翌週に仕事の合間を見て、アツキさんと待ち合わせ。ライブハウスの中にあるスタジオを訪れる。アツキさんはまだ来ていない。 俺は最近歌ってなかったので、一人でCDの伴奏に合わせて声を出す。 2曲目の途中で、アツキさんが入ってきた。俺はそのまま歌う。アツキさんも何も言わず、俺の歌を聞いている。歌い終わると、アツキさんは拍手をくれる。 「サラリーマン丸出しのスーツ姿で歌ってるのも面白いな。今度その格好でステージ立てよ。」 アツキさんはおかしそうに俺を見る。 「仕事中なんで、しかたないでしょう。」 「マナトも立派になったもんだ。おまえのスーツ姿を拝めるとは俺は嬉しいぜ。」 「そうですか?」 「ああ、おまえはすぐ危ないことに首を突っ込むから、心配したもんだ。」 それに関しては、仕事なんで今も一向に変わっていませんが・・・申し訳ない。 「いろいろご心配をお掛けしました。今思うと自分でもかなり危なっかしいやつだったと思いますよ。」 「おお、成長したんだな。おまえも。」 「まあ、人並みに歳はとってますんで。」 「そうかそうか。」 アツキさんは満足そうにいうと、上着のポケットからCDを取り出してデッキにセットする。
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