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「一応できた。」
そういって俺に楽譜を渡す。すぐにメロディーが流れ始める。
「お、いいですね。今までにない感じで。」
「気にいって貰えたかな。ちょっとアップテンポだから、おまえどうかなって思ったんだけど。」
「全然、大丈夫っす。バンドの時はそんなんばっかでしたし。」
「そうか。そんじゃ、アレンジの方向性を決めてくか。」
アツキさんと相談しながら、編曲を加えて行く。俺自身は編曲なんてできない。けれど、アツキさんはそういうところに長けている。ほんとにもっと活動したらいいのにと思ってしまう。
前二作がバラードだったので、今回はアップテンポなポップス調。ファンの子達が気に入ってくれるといいけれど。特にあのファンの方が。
アツキさんと別れてから、数件用事を済ませて高校生の事務所へ寄る。ドアを開けると、当番の子が窓際でたばこを加えている。
俺は睨みをきかせつつ、“似たような人がいたっけ”と内心で呟く。
「あ・・・、すみません。」
その子は近くにあった空き缶にたばこを入れる。
「やめとけ。いまは喫煙者には厳しい時代だぞ。」
未成年丸出しの顔してる癖にどこで手に入れてくるんだか。まあ、そういう経路を確保できるっていうのは、ここのメンバーとしては頼もしかったりもするんだが。
「そう、ですよね。伊藤さんは吸わないんですか?」
「え、ああ、俺は吸わない。必要な時以外は。」
俺は伊藤と呼ばれることにも慣れてきた。
「必要な?」
「ああ、状況的に必要な時は小道具に使ったりはするけどな。」
「へえ。」
「伊藤さんって、ここの出身なんですよね。」
「ああ、そうだけど。」
「成績よかったってききましたけど?」
一瞬内心でギョッとする。まさか俺がマナトだってバレたんじゃ・・・。ここの連中ならその気になれば調べられるだろうし。
「さあ、どうだろうな。誰がいってた?」
「佐藤さんです。このまえ、ひょっこり覗きに来て。」
タ カヤさんか・・・。ったく、なんなんだ。
「ああ、あの人のいうことは真に受けない方がいいぞ。食えない人だから。」
「えー、なんですか。それ。」
それより・・・と調査の件でいくつか確認をする。
行動には充分気をつけろと声を掛けて、事務所を後にして会社へ戻る。
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