灰色の夜

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 それからの五年間は今の所、二葉の中では二葉の人生の絶頂期、今まで生きてきた中で最高に自由で幸せな時だった。  なにしろ、住み込み先の寮は一人一部屋の個室に住むことができたからだ。狭くても自分一人しかいない部屋。それは寮費が給料から引かれるとはいえ、二葉にとって夢のような空間だった。  二葉は寮に入ると、お菓子を誰かに分けることなく一人でのんびりと全部食べた、。 自分が見たいテレビを他人に気兼ねすることなくいつでも見られる。休みに自分が好きな音楽を一日中かけ続けることもできるなど、どうでも良いことが、最高に楽しかった。  18を過ぎた頃には美容学校を卒業して美容師の国家資格をとる試験を受け、1回で合格した。  この試験は見習いとして真面目にやっていれば1回で受かると言われ、事実他の見習いの社員が1回で試験に受かっていたので合格した時には良かったと思うよりはむしろほっとしたというのが二葉の正直な気持ちだった。
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