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「あの空の向こうに私は行くんだよ。」
幼い私は、祖父の指の向こう側にある
橙と水色に挟まれた雲を見た。
それは、夢の世界に
続く入り口に思えた。
「私もいつか、行けるかな。」
「どうだろう。」
小さく笑う祖父がいた。
「一緒に行きたいな。」
ポツリと私の口からこぼれた言葉に
祖父は顔を覗かせ言った。
「順番だからね。一緒にはいけないんだ。」
そう言って私の右手を握った夏の日。
ずいぶん、大人になった私。
子供の手を繋ぎ歩く散歩道。
オレンジ色に染まり始めた空を
見あげるたびに思い出す祖父の顔。
「おいていかないで。」
と、いつも泣き困らせた小さな私を
宥めていた優しい笑顔。
雲の隙間から
今も覗いている気がして
嬉しくなる時間。
「いつか、また一緒に遊ぼうね。
おじいちゃん。」
心の手を振る夏の夕暮れ。
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