序章

10/10
前へ
/10ページ
次へ
 天使は俺の言葉に少し面食らった顔をするも、すぐにこにこ顔に戻り、こう言った。 「今はまだ秘密ですっ」  人差し指を唇に当てて薄く微笑む白鳳院さんは、本当に可憐で、思わず立ち止まって少しの間見惚れてしまった。  そのことがすごく恥ずかしくて、顔を見られないように先に歩き出す。 「予想はしていましたけれど、やっぱり……」  だから、そんな白鳳院さんの呟きが俺の耳に届くことはなかった。 ◆ 「ふう、ここかな?」 「みたいですね」  ようやく教室にたどり着いた。入る前に一つ深呼吸をして、扉に手をかける。  しかし、俺のその手が扉を開くことはなかった。 「……自動ドア?」  よくわからないけど勝手に扉が空いた。しかもその先には誰もいない。何これ、新手のホラーかなんか? お昼にもお化けが出るなんて聞いてないんだけど。普通に怖い。 「自動ドアじゃなあああいっ! 私よ私!」 「うわ、なんかどこからか声がする! 怖っ!」  いよいよホラーじみてきた……! 果たして俺はこの学校で生き残れるのか!? 「っ!? いってえええええええ!!」 「あらあら……」  緊張によるハイテンションでふざけ倒していた俺に、どこからともなくキックが飛んできた。しかも弁慶の泣き所。涙出てきた。  ちなみに白鳳院さんは隣でのほほんとしてる。天使。 「何すんだよ!」 「いやそれ私のセリフじゃない!?」  果たして、声の主は幽霊でも怪異でもなく、ちんまい女の子だった。俺と同じ制服に見を通していることから、驚くことに高校生らしい。どう見積もっても身長140センチ台なんだけど。ある意味ホラー。 「大丈夫? お譲ちゃん、くる学校間違えてない?」  だがあえてからかう。なんでかっていうと、なんとなくこの子はこういう扱いするのが正解なのかな、って思ったから。 「間違えてないわっ! 私はこう見えても16歳の女の子よ!」 「お名前はなんていうのかな?」 「その対応明らかに信じてないっ!? 七葉 雫(しちよう しずく)よ!」 「よく自己紹介できたねー、偉い偉い」  頭を撫で撫で。  なんだろう、友達いなかった俺だけど、この子――七葉となら普通に話せる。感動した。 「むぅぅぅ……!」  唸る七葉。しかし顔はまんざらでもない様子。よかった、嫌がられないで……(今更だけど)。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加