序章

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 姿見の前で変なところがないか確認する。皺なし。袖も余ってないしネクタイも変じゃない。よし、大丈夫。  少しポーズを決めながら確認を終えた俺は、筆箱くらいしか入ってないスクールバッグを持って部屋を出た。  ちなみに、出てすぐのところに母さんがいて、何やらニヤニヤと笑っていた。……どうやら、ポーズを取ってたのを扉の隙間から見られていたらしい。めちゃめちゃ恥ずかしいし死にたい気分になった。 「それじゃ、気をつけて行ってくるのよ。生活費は毎月ちょっと多めに振り込んでおくから」 「はーい。行ってきまーす」  生活費? 振り込む? なんのことだ……。  なんて少し気にしつつも、未だに決まらない自己紹介のほうが大事なので、今は頭の外に追いやる。  そのまま家を出ると、眩しいくらいに輝いている太陽が俺を出迎えてくれた。今日は少し暖かい。 「よしっ」  一言気合を入れて一歩前へと踏み出した。高校生活こそは楽しむぞ、と思いながら。 ◆  家から徒歩10分の場所にその高校はあった。  『県立桜ノ丘高校』  高校の前には桜並木があり、入学式のあるこの時期はちょうど満開。まるでピンク色のアーチの下を通っているかのような錯覚をする。  また、ヒラヒラと舞い落ちる花弁はさながら桜の雨のようで、始めて見た俺も、そして他の同級生もみな、立ち止まってその様を眺めていた。  そして、桜の丘という名の通り、桜並木を抜け、門をくぐった先にある坂を登った場所に学校はある。夏は汗だくになりながら登ることになるだろう。今から気が滅入る。  途中何度か立ち止まりつつも、ようやく学校についた。  校門から校舎までこんなに遠いとか詐欺だろ、なんて思いつつ、入学式の行われる体育館へと向かう。
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