6人が本棚に入れています
本棚に追加
――それから、特にこれといって驚くことはなく、入学式は無事に終了した。
「んーっ!」
ずっと座っていて凝り固まった筋肉を、伸びをしてほぐす。
「さて、教室向かいますかー」
このあとは担任の先生の挨拶と、俺にとっての鬼門である自己紹介が待ち受けている。
俺は誰にともなく小さく呟いて気合を入れると、席から立ち上がった。おっと、外履きも忘れずに持ってかなきゃ。
「はい、向かいましょう」
と、ここで、予想もしてなかった声が後ろから上がる。
「へ?」
何事かと見てみれば、天使が俺の隣に並び、あたかも「一緒に行きますよ」と言わんばかりの目線を向けてきていた。え、ちょっとまって。流石にこれは俺には難易度が高い。女の子と二人並んで歩くとか、あと三年は早い。……いやに現実味があるな、やっぱ百年とかにしとこう。
「……? 行かないのですか?」
こてん、と首を傾げる天使。天使天使言いすぎて名前忘れそう。
「い、いやっ、……うん、いこっか」
こうして俺の女の子と二人で並んで歩くという人生初めての試みはスタートしたのだった。正直気を失いそうなくらい緊張してる。なにせ天使みたいな可愛い子だぞ。
一歩、足を前に進める。すると天使も一歩進む。なんか感動。……いやいや今は教室に向かうことを第一に考えないと。こんなことで幸せな気分になってたら教室につくまでに死ぬ。確実に。
「そういえば」
教室に向かう途中、未だ緊張は解けないが、どうしても聞いておきたいことがあったのを思い出して天使に話しかける。
「はい、なんでしょうか?」
「どうして俺の隣に座ったんですか?」
そう、この人がいることに気づいた時からずっと気になっていた。他にも席はまばらに空いていたし、座る場所なんていくらでもあったはず。それに、座る場所は適当に決めたとしても、話しかける理由がない。俺より楽しく話をできる人なんてたくさんいるだろうし、女の子の隣だって空いてる席はあったはずだ。
自意識過剰乙、なんて言われたらそれで終わりだが、俺には何か理由があるように思えて仕方がなかった。
最初のコメントを投稿しよう!