とある史書の一頁 ①

1/1
前へ
/32ページ
次へ

とある史書の一頁 ①

この世界の名は、『マナリア』 世界を創造した女神『ラ・マナリア』 その女神の名を冠した世界である。 その世界の中心には山をも超える荘厳な世界樹がある。 その頂に女神がおられると言い伝えられてきた。 ヒトは女神を信仰し、命有ることを感謝し、祈りを捧げた。 それは女神に届き、世界樹の葉は翠色に。実は黄金に輝き、世を照らしたという。 ただ、ヒトは欲深き生き物であった。 とめどなく湧き出る欲は、他の生物を淘汰し、同族同士で争いを起こす。 長い年月をかけ、ヒトにとっての女神は都合の良い存在へと変わっていく。 ああ、女神様。どうか。 祈りは変わる。 溢れる欲が、願いに。 叶わぬ願いが、恨みに。 それぞれ自分の想いを女神に捧げる。 女神は全てを受け入れた。 やがてヒトとヒトの間で大きな戦が起こる。 森は焼かれ、川は汚れ、地は荒れた。 すると、異変が起きた。 世界樹が枯れ始めたのだ。 欲という黒い滴りは、長い年月をかけて淵となり、女神をも飲み込もうとしていた。 女神は嘆き悲しみ、涙を流した。 その涙は止まぬ雨となり、ヒトに降り注いだ。 戦は終わったが、雨は止まなかった。 そこで二人の英雄が、女神を救おうと立ち上がった。 二人は兄弟であった。 兄は言う。 「力だ。御する力が必要だ」 弟は言う。 「知識だ。解する知識が必要だ」 兄の力は秩序を作り、それを守り続けると女神に誓った。 弟の知識は叡智を与え、それを語り続けると女神に誓った。 女神は全てを受け入れた。 雨は止み、ヒトは己の過ちを悔い、女神へ祈りを捧げた。 それから、長い時間を経て世界は再び黄金に染まったという。 ヒトは欲深い生き物だ。 忘れてはいけない。 秩序と叡智を。 今も女神様は、世界樹の頂からヒトを見守ってくださっている。 著者不明 「マナリアの伝説」から抜粋
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

73人が本棚に入れています
本棚に追加