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冬の寒さも薄れ始めた四月の終わり。
瞳は一人歩いていた。
どこを歩いているのか、どこへ向かっているのか解らない。
ただ呆然と歩いていた。
「ほかに大切な人が出来たんだ」
頭の中で繰り返される敬介の言葉。
付き合い初めて二ヶ月と経たないのに、敬介から突然の別れを告げられた。
多分、私が悪い。
友達付き合いを大切にする瞳は、彼氏である敬介との時間より、友達と遊ぶ時間を優先にしていた。
友達付き合いから始めた敬介も瞳の性格は解っていると思っていた。
しかし、寂しさを感じさせてしまったのだろう。
自分が原因。
それはわかっている。それでも、突然の別れは衝撃を感じた。
学校が終わって真っすぐに帰る気になれず、どことなく歩いてきた。
大きな川の流れる土手に辿り着くと、瞳はフッと足を止めた。
どこからか、風に乗って優しいギターの音色と澄んだ歌声が聞こえて来た。
聞いた事のないメロディー。
聞き覚えのない歌声。
瞳は誘われるように、その声が聞こえる方へ歩き出した。
優しい歌声。
その声の主は、瞳より少し年上に見える男性だった。
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