17人が本棚に入れています
本棚に追加
いつもと同じように、空を眺めていると扉を叩く音がした。恐らく、アイツがめげずに朝食の呼び出しに来たのだろう。
「失礼します」
入ってきたのは、アイツではなく少女だった。夕焼け色の髪に、真水のように透き通った水色の瞳をしていた。メイド服を着ているが見ない顔だった。新人だろう。
「何の用だ」
正直言って何を話したかは、よく覚えてない。ただ、「王太子殿下」とオレの大嫌いな呼称で呼びやがった。
そのような敬称で呼ばれうる立派な人格者でも、父が自慢できる息子でもない。だから、嫌いだ。頭に血が上り思わず額を打ってしまう。彼女は、躊躇いもなくこちらに近寄る。
ーーやめろ。来るな来るな来るな来るなっ。
オレは恐ろしかったのだ。自分の容姿を見て存在を否定されるのが。
けれど、彼女はオレの姿を見ても落ち着いていた。そんなことは、初めてだった。オレは戸惑った。何故かと問うと、彼女は不思議そうに答えた。
オレの髪色も瞳の色もとてもきれいです、と。この時、オレがどんな心境だったかは、彼女には分かるまい。自分の存在を認められた気がして、ただただ嬉しかった。オレは彼女に救われた。
最初のコメントを投稿しよう!