引きこもる魔王と訪れる勇者

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魔族──人間とは異なる異形の種。 かつて魔王と共にこの世を席巻したが、魔王が勇者に討たれると表舞台から姿を消し、ほとんどは滅びを迎えた。 数少ない生き残った者達は人里離れた地で隠れ住むか、人間社会に溶け込んで暮らしている。 そんな魔族の一人が赤月真夜であり、魔王の末裔にして二十七代目になる魔王こそが逢魔御影その人である。 御影は寝ぼけた頭で顔を洗いながらボーッと鏡の中の自分を眺める。 いつも通り寝癖のついた黒髪に眠たげに細められた闇よりも深い瞳。 しっかりと目を開けて髪型を整えれば悪くないとは真夜の言だ。 だが、御影にそんなことをする気は更々ない。 どうせ誰に見られる訳でもなければ、それ以前に他人の目を気にするような情緒は御影にはなかった。 御影は真夜が毎日変えている真新しいタオルで顔を拭き、また一つ欠伸をこぼしてリビングに向かった。 「あ、やっと来ましたか」 ドアを開けて入って来た御影に気付き、真夜は料理の乗せられた皿をテーブルに並べていた手を一旦止めて顔を上げた。 「正直言えばもっと寝たいとこだけどな」 定位置の四脚ある内の左側手前の椅子を引いてそこに座る。 「駄目ですよ。朝はちゃんと食べないと」 そう微笑みながら真夜は御影の対面の椅子に座った。
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