高校デビュー

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 身体の微妙な気怠さに気がつき、意識が戻る。ベッドに寝たままカーテンを開けるという行為で光を浴び、睡眠欲との戦いに終止符を打つ事から一日を始めるのが日課だ。そのまま起き上がり、窓を開けると雲一つない青空が広がっていて、写真でも取りたくなるような天気だ。  携帯を見ると、八時を少し過ぎたところ。不在着信が五分置きに三件入っている。画面に触れ、通知をチェックすると、三件とも三川凛と表示されていた。 「って、八時かよ。遅刻するじゃねーか」  事態の深刻さに思わず独り言をつぶやいてしまう。どうやら今日は睡眠欲が完全勝利したようだ。戦った記憶すらない。スウェットを脱ぎ捨て、クローゼットにかけてある新品の学ランに袖を通す。着信履歴の一番上を押し、かばんの準備をしながら電話をかける。 「あ、もしもし、凛か。すまん、寝坊した」 「そんなことだと思ったよ、下でコーヒー飲んでるから早く来てね」 「下にいんのかよ」  すごく落ち着いた声で、すごく落ち着いたことを言われたせいで焦って急いでいる自分が間違っているのかともしれないという錯覚に陥る。  ドアを開けて階段を駆け下りると、一階に凛はいた。本当にコーヒー飲んでいやがる。喫茶店になっている一階の真ん中のテーブルで優雅にしているのを見て、思わずため息をついてしまった。   「柚宇、なんで起こしてくれなかったんだよ」 「んー? 気持ち良さそうに寝てたから、ついね」  すました顔で、朝ごはんのトーストを持ってくる。母親である柚宇がやっているこの喫茶店は、木目を基調とした落ち着いた雰囲気の店で、かなりゆっくりできる。四人掛けテーブルが5つと二人掛けテーブルが5つ。カウンター席が6つと、結構多い。 「起こせよ、入学式だぞ……」 「お店は茜ちゃんと舞ちゃんに任せて私も行くからビシッとするのよ」  会話になっているようで実はなっていないのが俺たち家族のやり取りだ。コーヒーを飲みながらトーストを食べる。ブレックファストセット、200円。朝九時から三十分だけの超格安人気メニュー。それがだいたい俺の朝飯となって出てくるから朝から抜群にうまいコーヒーが飲める。
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