第1話:隙(スキ)

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都心部に位置するオフィス街。 入り口にイメージキャラクターの ウサギ型モニュメントが目立つビル。 他の社員と挨拶を交わし、正面にある 受け付けの機械に社員証をタッチして、 パネルに表示された番号のエレベータに 乗り、10階で降りて真っ直ぐ歩き、 正面に見えているガラス張りの扉を押し 中へと歩みを進めると壁1つない部屋が 広がる。 天井から編集部と書かれた標識の下に 置かれた機械を操作し、自分が使いたい デスクを選んでノートパソコンが入った 鞄を置き、普通の社員では使う事の できない一番日の当たりが良い位置に あるデスクへと向かい、窓辺に立ち、 優雅にコーヒーを飲む人に一礼。 「これはどう言うことですか。 これは嘉山の企画であって、 私の企画じゃありませんよね?」 私、野嶋美羽はこの部所の長であり、 実の兄、高木孝太に食って掛かった。 「そんな事は知っている」 「じゃ、今月予算がもうない事も 分かっていただけてますか?」 「あぁ」 私の腕の中には昨夜、勝手に机に 置かれていた元彼、嘉山旬が考案した 企画書があり、封筒に張られた付箋には 【最優先】の文字が書かれてあった。 何の問題もないかのように椅子に座る 編集長の机の正面に立ち書類を力任せに 叩きつけた。 「では何故、私が彼と取材に 行かなきゃいけないんですか!?」 「上が決めた最優先事項だ」 「ここの責任者は貴方でしょ!!」 「私の仕事はお前らの不祥事の責任を 取る事であって、雑誌の意向は会議後 最終的には上が決める」 「その最終的の決定のおかけで 私はまだ5つの取材を抱えています」 我が社の雑誌は、グルメやコスメ、 ファッションまで扱う、恋する女性を ターゲットにした業界最高峰。 なんて言われていたのは今は昔の話。 数か月前から部数が落ち込んでいくのに 歯止めをかけるべく、私と嘉山は 新たにグルメ雑誌chocolateその物を 企画、何とか発売までこぎ着けた。 会社自体は痛手を負う形にはなったが、 あと少しで黒字になるぐらいには 急成長している。 だからこそchocolateが大事にされるのは 分かっているつもりだが、納得とは かなりほど遠い。
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