第1話:隙(スキ)

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「これラスト」 テーブル用の布巾を渡し、 「終わりました。 布巾をお願いします」 「ありがとう」 手際よく片付けが終わった。 「お兄さんはここに来店なさった事は あるんですか?」 カウンターに座って聞いてくるから、 鞘付きの枝豆とザル2つを机に置いた。 「孝兄はオーナとしてならたまに来るよ」 「え?」 「この店の資金は全部孝兄のポケット マネーで運営されているから、 月末には経理やら内装を見に来る」 「そうだったんですね」 プチプチ音をたてながら 豆と鞘を分けてザルに入れていく。 「おまけにねぇちゃんの会社の 編集長やら別事業の副社長も 兼任させられて……、ってか、 もっと職権乱用してビシッと、 言ってやれば良かったんだ」 「それができるなら、元彼さんを他の 部所に移す方が楽だと思いますよ」 「それ、それなんだ。 歯向かえば他の部所に移すのを視野に 他の人とやれって話して、“どうしても 美羽ねぇとやりたい”って言われても 駄目だと言えば良い。 本当にねぇちゃんを大事に思うならさ」 すると大地は考える素振りを見せると、 う~んと唸った。 「まだ好きだから一緒に居たい」 「えっ?」 「もしかしたら、好きと言うだけでは どうにもならない問題がお2人には あったのかもしれません。 それをお兄さんが知っていたなら 後押しをするでしょうね。 大事な妹さんなら尚更。」 【自分】が幸せに出来ない現実に どれほど【母】を恨んだ事か……。 「だとしてもねぇちゃんを泣かすのは 許せねぇ」 姉弟の【関係】があるから、 小さい【俺】を守ってくれたけど、 もう、ねぇちゃんを【守れる】ぐらい 【力】も 【知識】もつけた。 もう2度と【泣かせない】と誓った。 「どんな彼氏さんだったんですか?」 「知らない……」 「え?」 「会ったこと1度もないし」 会わせてもらった事もない。 何故嫌がったのかは分からない。 どんな奴なんだ……。 話を聞く限りでは、いい人っぽいけど、 俺はそうは思えない。 まだ好きだから何だよ。 好きだからって企画に指名はするけど、 心はけして通わせない。 それは、美羽ねぇの感情を利用してる のと同じ事……。 仕事でもなんでも良いから ここに来いよ。 そしたら一発殴ってやるのに……。 「早く幸せになってもらいたいですね」 「あ、ごめんつまらなかったな こんな話し……忘れてくれていい」
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