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扉を開けたら窓が開いているのか、春風と共に甘いフレグランスの香りが俺の鼻腔をくすぐった。 夕陽の差し込んでる音楽室は、何とも落ち着く。 ステージの上に一台の黒い、グランドピアノ。 そこに一人、誰かが座っている。 ゆったりとした曲調に耳を傾けながら、音楽室内を見渡す。 初めて入ったな、なんて。 選択教科は音楽じゃないから。 「……誰?」 ぷつりと、曲が途切れた。 「あ、悪い。曲が聞こえてきたから…」 「…ふーん」 それだけ言うと、また弾き始めた。 でも、複雑な音響じゃなくて、単純な…音楽初心者の俺でも分かるような、単純な音響。 ……ここにいると何だか、時間が止まっているような感覚に陥る。 それが、俺をとても落ち着かせた。
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