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それから少しして弾くのをやめたらしい、声から判断できた彼の指はピアノを優しく撫でていた。 「……君、追われてたね。……何かしたの?」 「い、いや…何かしたってほどのことでもねーんだけど…」 「…ふーん」 まさか話しかけられるとは思ってもいなかったから、少し驚いた。 話しを、続けてみようと思った。 「見てたのか?」 「……違うよ、聞こえたんだ。……君たちの声が」 とんとん、と、左手の人差し指で、左のこめかみ当たりをつつく。 ちなみに夕陽が逆光で彼の顔は分からない。 立っているのか、座っているのかも…いや、立ってはないと思うけど。 「聴覚いいんだな」 「……いいってほどでもないと思うけど。…でも君なら、嬉しい」 ……まるで、俺を知っているような口調。 でも俺はこの声は聞いたことなんてない。 「なあ、お前、名前は?…俺は水野。二年の水野だ」 下の名前は…恥ずかしくて言えない。 「… おかしな子。………オレと君は、同じクラスなのに」 ………え。 え、これ、俺、めっちゃやっちゃいけないパターンをやっちゃった?
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