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「ちょっと!あなた―――。」
「明日、午後1時にここに来い。」
「はぁっ?」
「オーディションしてやる。遅刻するな。」
一方的に告げて、足早に去っていく男。
「待ってよ!」
追い掛けようとした私は、ガタンという音を立てて、見事にスツールに足を取られる。
無様に床にへたりこむ私を振り返り、男がツカツカと私に近付いてくる。
手を貸してくれるなんて、実は良い人なんだ……。
その姿を潤んだ目で待ち詫びる私に、男は淡々と言い放った。
「そのチラシの劇団は止めておけ。座長の女癖が悪い。」
「…………。」
手を差し伸べることなく踵を返す男。
私はへたりこんだまま、そのスラリとした背中を怨めしく睨み付けた。
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