8/17

353人が本棚に入れています
本棚に追加
/321ページ
「ちょっと!あなた―――。」 「明日、午後1時にここに来い。」 「はぁっ?」 「オーディションしてやる。遅刻するな。」 一方的に告げて、足早に去っていく男。 「待ってよ!」 追い掛けようとした私は、ガタンという音を立てて、見事にスツールに足を取られる。 無様に床にへたりこむ私を振り返り、男がツカツカと私に近付いてくる。 手を貸してくれるなんて、実は良い人なんだ……。 その姿を潤んだ目で待ち詫びる私に、男は淡々と言い放った。 「そのチラシの劇団は止めておけ。座長の女癖が悪い。」 「…………。」 手を差し伸べることなく踵を返す男。 私はへたりこんだまま、そのスラリとした背中を怨めしく睨み付けた。 .
/321ページ

最初のコメントを投稿しよう!

353人が本棚に入れています
本棚に追加