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「ほら、ヤバそうなら殴って逃げるし。」 『無理無理。天然のアンタはボケーッとしてる内に縛り上げられてるって。』 ゲラゲラと失礼な笑い声が響き、私は溜め息を吐く。 『劇団名とか聞いてないの?』 「質問する間もなく行っちゃったからね。」 手元の封筒には、オーディション会場の住所と、携帯の番号。 男の名前すら書かれていないところが、一層怪しさを増す。 ……やっぱり、萌の言う通りなのかな。 とは言え、『オーディション』という甘い誘惑は、私の心を揺らす。 「とりあえず、行くだけ行ってみる。」 『分かった。とにかく気を付けて。』 電話を切ると、ジワリと高まる緊張。 握り拳で気合いを入れると、帰りにコンビニで買ってきた履歴書に、丁寧に文字を書き込んでいった。 .
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