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辺りが夕焼けで真っ赤に染まる頃。
漸く到着した私の住むアパートの前で、地べたに座り込んで項垂れる懐かしい姿を見つける。
何と声を掛ければいいか解らず、少し離れた場所で立ち止まると。
「早く行ってやれ。」
圭さんはそう言って、私の背中を押した。
その声に弾かれるように顔を上げた要君が、慌てて立ち上がる。
「……宇多さん。」
絞り出された声と、今にも泣き出しそうな笑顔。
私に向けられる優しさは変わらなくて、胸が軋む。
一緒の劇団でお芝居を作ってきたのだ。
彼の真っ直ぐでブレない性格を解っていながら、私は終わらせることもせずに、自分勝手に逃げ出してしまったのだ。
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