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「……俺、本当に逃げたんじゃないんです。
俺は周りが見えなくなる性格だし、このままだと宇多さんをどんどん追い込んでしまいそうで……。」
「うん……。」
「……もし、あの時宇多さんと距離を取らずにいたとしても、俺は宇多さんに振られてたと思います。」
「……。」
「始まりから間違ってたんですよ。宇多さんは俺のこと……。」
言葉を飲み込んだ要君は、勢いよく立ち上がると、無理して私に笑って見せた。
「良かったですね。
本気で誰かを好きになることができて。
……まぁ、その相手が俺じゃないのは残念ですけど。」
私より3つも年下の彼が見せるボロボロの笑顔が胸に刺さる。
「俺、もう行きます。
あまり話してると別れ辛くなりますから。」
「要君!……私、楽しかったよ。短い間だったけど、要君と過ごせた時間は、大切な思い出だから!」
「……それ聞けただけでも、ここまで来た甲斐ありました。
もうすぐ本番ですよね。頑張って下さい。」
片手を上げて去っていく要君が、一回り小さく見えて。
姿が見えなくなっても、彼の消えた方角をずっと見つめていた。
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