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10人乗ればギュウギュウの小さなエレベーターで、彼と二人きりになるのは気まずくて。
操作盤に張り付き、ゆっくりと降りていく階数表示を見つめる。
「……悪かった。」
ボソッと呟かれた一言は私に向けられたものだろうか?
斜め後ろに立つ彼を肩越しに振り返ると。
エレベーターが1階に到着し、ドアが開いた。
到着したにも関わらず、降りようとしない片桐圭吾に戸惑っていると、当然ドアは閉まるわけで……。
誰も用のないエレベーターは、私達を閉じ込めたまま、動き出す気配がない。
「……大輔は、芝居は上手いが女癖の悪さが玉に瑕でな。
俺の監督不行き届きだ。すまない。」
「それは、あの……片桐さんが悪い訳じゃないですから。」
グッと込み上げる得体の知れない感情に、目頭が熱くなって。
震える声を誤魔化すように、つい強い口調になる。
「……片桐さんが優しいと、気味が悪いですっ。」
すると、片桐圭吾はフッと笑った。
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