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そうして無理矢理始まった訓練の記念すべき第一回目、ソルスが連れてこられた場所は、村のとある民家前。
村人から悪評もなければ、魔王の隠れ家などというオチはどうひっくり返っても起こりそうもないTHE・民家だ。
ヒルダは言った。
「よし、ソルス。
剣聖としての輝かしい第一歩だ!
この民家のタンスを全部開けてこい」
「ええっ!?」
「何、なにも遠慮することはない!
世界を平和にしてやるんだ。
貢ぎ物のひとつやふたつやみっつ。
戴いても何の問題あるまい。
この行動は村民の危機管理能力を養うためでもあるんだ。
むしろ、胸を張ってやれ」
「わかったよ、母さん」
剣士の卵ソルスはひどく鈍感な男だった。
疑うどころか、むしろ好意的に物事をとらえ、解決してしまうのもこの男の恐ろしいところ。
(剣聖は大変だな。
精神や肉体の鍛練だけでなく、まさか村の危機管理までしなくてはならないとは!
しかもよりにもよって、ここは村一番の偏屈ボブじいさんの家じゃないか。
人様の家のタンスを開けるなんて、気が引けるけど、これも剣聖は普通の人間の感覚ではいけないということなのかもしれないな……!)
ソルスは深呼吸一つ落とした後、朝焼けに照らされるボブ爺家のドアノッカーを鳴らした。
(アイーン、アイーン)
何やら不可思議な呼鈴が鳴り、続けてソルスは大きく息を吸い込んで、高らかと声を張り上げた。
「おはようございます!
剣聖の修行の一環で、タンスを開けに来ました!」
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