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また別の日、ヒルダはソルスをピクニックに連れて出た。
グラーニ村はグリーンランド大陸の最東端にあり、西と南は森で覆われ、北と東側は断崖絶壁の崖に面している。
深い森を行き来しない限り、外界との接触が不可能なこの村は完全なる過疎村だった。
「はっはっは、今日はいい天気だなぁ、息子よ!
わくわくする、冒険にでも行きたくなる気分だなぁ!」
ソルスは、ヒルダ特製爆弾おにぎりを頬張る時になって向かいに座るヒルダの様子がいつもより不自然に優しいことに気付き、咀嚼途中のおにぎりをうっかり塊のまま飲み込んてしまった。
「むぐっ、ぐっ、ぐ……」
喉を押さえてばたつくソルスが水筒の中身を飲み干したところに、悪魔は満面の笑みで待機していた。
「さぁて、息子。
腹ごしらえが終わったらピクニックごっこは終わりにしてすぐに訓練に入るぞ~、楽しいな~、訓練は!」
ヒルダは一体自分に何を教えようというのだろう――
その時のソルスの目には、ヒルダがまさに蛭のように舌を出してニタニタ笑っているようにさえ見えた。
「さあ行け、息子よ!
遠慮はしなくていいぞ」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
絶対に嫌だよ母さん! 冗談だろ!」
ソルスの嫌な予感は的中した。
彼の一歩先の視界には、地平線がくっきりと見渡せる断崖絶壁の闇が果てしなく広がり、踏み出したが最後、猛烈な助走を経たトップスピードそのままに地面にキスすることになるだろう。
母は息子に言った。
ここから飛び降りろ、と。
崖の縁から小石がころん、と転がり、闇へと吸い込まれるように消えていった。
自分もこうなる運命を辿るのか。
そう思ったソルスはちょっぴり泣けてきた。
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