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視界が高速落下の流線を描いていく。
地面が近付いてくる。
トップスピードのまま突っ込む先にはもちろん、安全用のクッション材もなければ、大小さまざまな岩の団体がお待ちかねである。
(このままでは落ちる!
運がどうこうの前に母さんに殺られる!)
だが、地獄へまっ逆さまに落ち行く中、ソルスはあることを思い付いた。
「ミッションだ! いこう、アールド!!」
ソルスは後腰部のベルトに固定されている愛剣アールドを瞬時に抜き去り、崖の断面へと思いきり突き刺した。
ソルスは本当に運が良かった。
アールドは見事に岩の断面を割って突き刺さり、その後、慣性でズルズルと引きずり落とされはしたものの、どうにか引き留めることに成功した。
ホッ、と胸を撫で下ろすも、随分下まで落ちてしまっていた。
アールドのお陰で均衡を保ってはいるものの、いずれは岩場がソルスの重量に耐えきれずに崩れ、次はアールドもろとも真っ逆さまだ。
どうしたものかと思念の糸を巡らせていると、ふと、手元付近にロープが垂れ下がってきた。
(こんなことをするのは、母さんだけだ!
もう運試しは終わったんだ!)
ソルスは嬉しくなって、崖上を見上げた。
「母さん!」
そこにはしっかりとロープを掴み、天使の微笑みを浮かべた母親の姿があった。
(終わったんだ、今度こそ!)
ソルスはやりとげた達成感と、母親の施しに胸がいっぱいになった。
ソルスは慎重にロープを掴んで体重を移し変えると、アールドを鞘に納め、一気にロープを昇った。
ようやく崖っぷちが見えたところで、ヒルダがソルスに手を差し伸べた。
「息子よ、よくやったな!」
「母さん!」
ヒルダに誉められた。
彼女は身内に厳しく、自分に甘い。
だからこそ、誉められた時は手放しで喜べる。
ソルスはヒルダから差し出された手を掴んだ。
「なあ、息子よ」
「何だい、母さん」
次の瞬間、ようやく辿り着いたことへの安堵感と達成感に溢れたソルスの心は脆くも崩れ去ることとなる。
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