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突然だった。
月の光で溢れた夜の中に、ぼんやりと一人の青年が写し出されていた。
窓から見える木の枝の上に浅く腰掛け、じっとこっちを見つめる彼。わたしの記憶の中では、おそらく初対面であろうと思われるその彼は、優しい金色の目をしていた。
「…あの」
窓は閉まっている。わたしの声は届くだろうか。
「…こんばんは」
すると彼はにっこり笑って、
「こんばんは」
と返してくれた。
声が聴こえたことに安堵し、質問を投げかけてみる。
「何でそんなところにいるの?」
「君が僕を呼んだから」
「呼んだ?」
「そう。会いにきたよ、亜理砂」
微笑みを絶やさず、優しい瞳のままわたしの名を呼ぶの彼。夜風が吹いて、彼の漆黒の髪をやわらかく揺らしていった。
「…どうして、わたしの名前を」
知っているの?
声にはださなかったその言葉を理解したかのように、また彼は少し笑った。
「君は知らなくてもいいことだよ、亜理砂。大事なことは、君は僕を呼んだということ」
「わたし、呼んでない」
「いや、呼んだ。現に君は、僕の事が見えているでしょう?」
「じゃあ、他の人には見えないの?」
「そうだね。僕の姿は僕を必要としてくれる人にしかみえないよ」
「どうして?」
「どうしてって言われても…。そういうものなんだよ、生まれたときから、ね」
ごめんね、上手く答えてあげられなくて。
そう困ったように、眉を下げて言う彼。
月の光に照らされたその動作一つ一つが、すごく静かで洗礼されていて、それでいて、あんまりにも綺麗だったから、少しだけ自分の胸が高なったのが分かった。
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