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質問攻めのわたしの様子を見かねてか彼は、
「君はなぜ、僕のことを呼んだか、まだ分かっていないみたいだね」
と、また微笑みながら言った。
「少しだけ、僕のことを話してあげる。僕はね、亜理砂みたいな完全な“人間”ではないんだ」
「……え?」
「だからこうして厚い窓ガラスを挟んでいても、声を聴くことができる、届けることもできる」
「……」
「もちろん僕には名前もないし、家族もいない」
「…じゃあ、それじゃあ、あなたは一体、誰?」
わたしはじっと彼の顔を見つめながら尋ねた。
すると、彼は金色の瞳をよりいっそう輝かせ、深い笑みを作った。
「そうだなあ、ほんとのところは自分でもよく分かんないんだけど」
「…分からないの?」
「うん、分からない。でもね、人はよく僕のことを“ひかり”と呼ぶ」
「“ひかり”?」
「そう。“ひかり”。僕は人間の形をしたひかりなんだ」
そう言った彼は木の上に立ち上がると、次の瞬間にはわたしの部屋の中の、わたしのすぐ隣に立っていた。
それは、壁をすり抜けたとかそういうのではなく、ただ、そこにいるのが当たり前かのようにとても自然な流れの中でおこった出来事だった。
すぐそばで微笑みながら、わたしのことを見下ろす彼。
首もとにある、小さな金色の飾りがキラリと輝いた。
「僕は、ひかり」
「あなたは、ひかり…」
「そう、ひかり。僕はなにかを照らすためにある」
「……」
「ねえ、亜理砂」
「……」
「君は何処を照らしてほしいの?」
答えられなかった。なぜってそれは、わたし自身がいま一番迷ってることだから、苦しんでいることだから。
彼はそれを見透かしている。
わたしは思わず、彼から目をそらした。
「………」
「……答えられない?」
「……ごめんなさい」
「謝らないで。君はまだ苦しみの途中なんだ。だから僕を呼んだ」
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