会いにきたよ

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「でもね」 彼は、ゆっくりとわたしの髪をすくい、落とし、すくい、落とす。 その伏せられた金色の瞳は憂いを帯びていて、それでいて、とてもとても優しくて。 強いひかりというよりは、淡く、ぼんやりとするような輝き。 それなのに、目が離せない。 反らせない、反らさせない。 その姿は、まるで、 「もう、決まってるんだよ」 「……え?」 「もう、決まってるんだ」 でしょ?と彼は小首を傾げ、わたしをみる。 「…決まって、る?」 「そうだよ。答えはでてる、亜理砂の中で。ただそれを口にだして言う勇気がないだけ」 すくっては落とし、またすくっては、落とす。 ゆるやかな動作と、優しくてあたたかいことば。 彼の手先は、声は、同じことを繰り返しているのに、わたしの心臓は狂ったように、強く強く脈を打っていた。 決まっているんだ、もう。 そうだよ、あなたの言う通り。 もう答えはでているの。 苦しんでいるのは確かだけれど、迷っているなんて、ほんとは嘘。 わたしにはただ、勇気がないだけ、覚悟がないだけ。 言葉に、したくないだけ。 「……ほんとに」 「ん?」 「……ほんとに、これでいいのかな」 「どういうこと?」 「わたしは、本当にこの道を選んでいいの?」 「何を躊躇う理由があるの?」 「だって…」 この道は真っ暗で先が見えない。 見えるのは自分の足元だけ。 どれくらい長いのか、なにが待っているのか、何も分からない。 たったひとりぼっちで。 日常が変わってしまうかもしれないのに。 今が終わってしまうかもしれないのに。
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