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あの日、俺は沢山の大切なモノを失った。
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蒼い空を覆い尽くす黒い煙。
辺りを焼きつくそうとする炎。
形を失ったものは、崩れ落ち辺りに響き渡る。
つい数時間前までは立派な銅像だったものは、瓦礫へと変わっていた。
「春兎早くしろ! 追手が来るぞ!」
負傷した少女に、肩を貸す少年は、紺色のコートを着た少年へと呼びかける。
春兎と呼ばれた少年は、立ち止まったまま通ってきた通路を見つめる。
「鷲司……美魚を連れて先に行ってくれ」
「お前何言ってるんだよこんな時に、お前を置いて行けるわけないだろ!」
鷲司と呼ばれた少年は、春兎と同じ服を着ており、被っていたフードを取る。
少し赤みがかった髪と整った顔、黒い瞳は春兎だけを睨みつけている。
「ほら行くぞ、こんな所にいる間にも相手は迫ってきてるかもしれないんだ」
「……遅かれ早かれ追いつかれるよ、だから鷲司は美魚を安全な場所なで連れて行ってやってくれ、俺はここで追手を食い止めるから」
「ふざけんな! お前一人にできるわけないっていっただろうが! お前が残るなら俺も残るぞ」
「美魚はどうする?」
「……」
鷲司は、春兎の顔を直視することができず、ただひび割れた地面を見つめる。
数秒間の沈黙のあと、鷲司は決意すると春兎の目を見つめる。
「……なら、俺が残って追手を食い止める、春兎が美魚を連れて逃げてくれ」
「それは鷲司の頼みでも承諾できない、それにお前左手が負傷してるの知ってるんだぞ」
「クソ……いつもみたいに三人でっていうのは無理なのかよ」
「ああ、すまない」
二人の少年は奥歯を噛みしめながら下を俯く。
未だに遠くの方では爆発音が聞こえてくる。
「なんで……なんでだよ」
「先生を助けにいこうといって巻き込んだのは俺だし、今回の出来事が起きた時から心の中で、なんとしてでも俺の力で皆を守るって決めていたから」
「……」
「だから、俺がなんとしてでも追手を押さえる、鷲司と美魚には絶対に手出しをさせない!」
「春兎……」
春兎の目を見る鷲司は、何をいっても無駄だという事に気づく。
そんな中で、隣で支えられたいた美魚は、意識を取り戻す。
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