万象皆無

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「あぁ……っあぁ!? っはぁ……はぁ……はぁ」 情けない声を出し、懐かしい悪夢から僕は覚めた。 いつも通り最悪の目覚めだ。 さて、まず起きて最初にするのは現状把握だ。 大体の人はそうするであろう。 僕は目を擦りながら、なかなか動けずに居るのが現状である。 恐らく人は起きて現状把握を無意識に行う。 「……うーん……犬も猫もそうだろうな……夢って何だろう? 記憶の整理? ボケ防止? うーん……厄介すぎるだろ」 っと、伸びながら文句を放った。 「とりあえず……まだ、眠い……寝た気もしない」 僕は答えの無い事に答えを出そうとするのをやめ、もう一度布団に包まる事にした。 何故か二度寝の時は悪夢を見ない。 別に可愛い妹や、手厳しい姉、年不相応な母親達から、早く起きろコールをされる────わけではないので構わないだろう。 一人で使うには広すぎる家、必要以上に効いたクーラー、大して個性の無い高校の制服に鞄、洋風机に母親が置いていったでかい鏡、窓とベッド────良かったと、改めて安堵した。 家があって……危うく家“も”無くなる所だったからなぁ……まぁ、正確には僕がぶっ飛ばすとこだったわけだが……はは。 半分寝ぼけながら、ゆっくり支度を始める。 今日は二度寝をしてはいけない日だった。 さて、自分でも笑うぐらい目つきの悪い顔を洗い、歯を磨き、私服に着替える。 水道を全部閉め、クーラーを消し、ブレーカーを落とす。 置き手紙は置いたな。 そして、大きな白いキャリーケースを持って家を出る。 自分の家に一礼をして────だ。
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