前編

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「お待ちしていました」  翌週から、ラウルはレイチェルの家庭教師を引き受けることになった。  通い慣れたはずのラグランジェ本家だが、訪れるのは十数年ぶりであり、さすがに少しばかり緊張を覚えていた。迎え入れてくれたのが、サイファでもその親でもなく、レイチェルだというのも奇妙な感覚である。本当に今さらであるが、彼女が本家に嫁いだいう事実を、あらためて思い知らされた気がした。 「着替えてきた方がいいかしら」 「そのままで構わん」  ラウルはぶっきらぼうに答えるが、レイチェルに目を向けられると僅かに視線を逸らす。その大きな蒼の瞳に気持ちを見透されてしまうようで怖かった。その恐怖は彼女に対してのみ感じるものであり、それゆえ、同時に多少の懐かしさも感じていた。
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