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カツン、カツン、カツン--。
レイチェルが一歩下りるたび、石段を打ち付ける音が低い天井に反響する。ラウルは彼女のあとについて、薄暗い階段の先にある、魔導の訓練場へと向かっていた。もちろん、ここに入るのも初めてではない。サイファの家庭教師をやっていた頃に、幾度となく使用していたところだ。
カツン--。
規則正しかったリズムが止まり、レイチェルは行き止まりの鉄扉に手を掛ける。が、すぐに開こうとはせず、背を向けたまま、小さな肩をわずかに上下させて静かに言う。
「私、本当はまだ怖いの」
「…………」
どう返事をすればいいのか、どんな言葉を掛ければいいのか、ラウルにはわからなかった。口を閉ざしたまま視線を落とすことしかできない。彼女は淡々と言葉を繋ぐ。
「でも、私、ラウルを信じているから」
長い髪をさらりと揺らして振り返り、ラウルを見つめると、ニコッと子供のように愛らしく微笑んだ。それは、無邪気に信頼を寄せてくれていた、あの頃と変わらない無垢な笑顔だった。
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