微妙に寒い部屋

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 温度計が氷点下を示す日が続いた。  ストーブの周りは暖かい。  しかし部屋全体としては微妙に寒かった。 「こういう日は、体が温まるようなモノを食べたいな」  男は言った。 「なんだろう。鍋物?」  女は首をかしげる。  男は「それだ」と目を輝かせた。 「食べに行く?」  女は言った。 「いや、お前のモツ鍋食いたい」  男は女の料理の腕前を知っていた。 「わかった。最高のモノを作って待ってるよ」  女はにっこりほほえんだ。  やがて男は出かけた。  そして夜遅く帰ってきた。 「ただいまー」  男は期待に満ちた顔で部屋に入った。  テーブルの上に卓上コンロがある。卓上コンロには、グツグツ煮え立つ土鍋がのっていた。  これがうまそうな匂いの正体だ。  男は、台所に横たわる女に気づいた。 「待ちくたびれて寝ちゃったか。ごめんな」  部屋は相変わらず微妙に寒かった。
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