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深夜。私は高価な柱時計の文字盤を見た。海外のメーカーに特注で作らせた代物だ。
二つの針が間もなく前を指そうとしているのを確認して、
「そろそろ、奴が来る頃だな」
私は肘掛け椅子の背もたれに掛けてた高級ガウンを羽織った。大理石のテーブルには、高級ワインを注いだクリスタルグラスが二つ。
私は、これからやってくるであろう来客と話をつけるつもりでいた。
玄関のベルが鳴った。私は急いで玄関へと駆けつけると、檜製のドアを開けた。
「ご機嫌はいかがでしょうか?」
玄関先には、奴が嫌みったらしい笑みを浮かべて立っていた。奴はいつもと同じ格好に、お馴染みのボストンバックを持っていた。
私は未だに、奴の陰湿な雰囲気に馴染めない。まあ、馴染めるような人間などいないと思うが。
この言い方では、奴が人間でないように消えるだろう。事実、奴は人間ではない。奴は、悪魔なのだ。
元々、召喚術に興味があった私が、この世に喚びだしてしまった悪魔なのだ。喚びだしておきながら、馴染めないとは理不尽な話に聞こえるかもしれないが、実際にこいつを目の当たりにすると言いたくもなる。
悪魔は応接間に着くなり、さっそく手に持っていたバックをテーブルに放り投げた。
「これが、今月の分だ」
「ああ・・・」
私は小さな溜息をつき、バックの中身を確認した。中には大量の札束が詰まっていた。一年間、あらゆる贅沢をしても使い切れないほどの金額が。
「どうした。うれしくないのか?」
悪魔は溜息ばかりつく俺を心配してくれていた。
余計なお世話だと思い眉をひそめて、
「いや。うれしいさ・・・。だが・・・」
「どうした?何か、不満なことでもあるのか?」
「実をいうと、もう金はいらないんだ」
私はもう悪魔が用意する金は不要だった。そのことをずっと前から悪魔にお伝えようとしていた。
金がいらない。その言葉を聞くと、悪魔は驚いたように声をあげた。
「どうしてだ?これは、お前の成果なのだぞ。全てを投げ打って、私を喚びだした。今時、珍しいから、私はお前に何の対価も求めず、金を提供してやっているのだぞ」
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