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勿論ですとも、と零コンマ何秒で即答しそうになるのを何とか飲み込む。
何か葛藤があるのか、すこし言いにくそうに芽衣さんが口にした。
まぁいくら芽衣さんといえど、多少の葛藤はあるだろうとは思う。付き合ってもいない、告白され未遂(?)の男の家に泊まるのだし。
堂々と「今日も泊めなさい」とか言われたら、本気でただの添い寝人形だ。まぁ別にそれでもいいけれど。
「どうぞ?明日の朝もその方が楽でしょ。
そうだな、雨だし、家デートしよっか。」
やっぱり帰る、と言われないように、俺はわざと決定事項のように話を進めることにする。
「デートって……。」
ただ居るだけだと、つまらないような気がして。
こういう宣言をするだけで、ただ家で過ごすだけのことでも、ちょっと気分が違ってくる。
「雨風が酷くならないうちに食材だけ買いに行って、一緒にご飯でも作ろうか。
あと、地上波放送の映画とか録りためてあるんだけど、消化するの付き合って?見たいのあれば、借りてきてもいいし。」
家でやることと言っても特にないので、なんとなく思いつく限りで提案してみる。
芽衣さんは少しの間ぽかんと口を開けていたが、ふっと頬を綻ばせた。
「ドラマも映画も、もう何年も見てないから、久しぶりにいいかも。」
そう言って、芽衣さんが柔らかく微笑む。
含みのない笑顔を見せてくれることが多くなって、いちいちドギマギしてしまう。
「じゃぁ決まり、朝食、って言ってもパンと卵くらいしかないや。適当に作るかな。」
言葉のとおり適当に作って朝食を済ます。
自分ひとりなら作らないだろう野菜たっぷりのスープは、芽衣さんが作ってくれた。
根菜は火を通すのが面倒だと思っていたら、レンジで全部火を通してから鍋に入れていた。おぉ、時短だ。なんか効率的で芽衣さんらしい。
冷蔵庫の中身を見て、「普段から自炊してるのね」とつぶやいていた。
それなりにはやるけれど、とりあえず腹に入ればいいや程度のものしか作らないので、そんなには揃っていない。でもなぜか、なんとなくイメージ通りだと言われた。うーん、芽衣さんの中の俺は一体どんなイメージなんだろう。
芽衣さんは実家に住んではいるけれど、朝も早いし夜も遅いので、自分の食事は自分で作るスタイルなのだそうで、「腹に入ればいいや」というところで妙に共感されてしまった。
それ女の子としてはどうなの?とも思ったが、芽衣さんなので今更だった。
終電で帰宅すると、家に着くのは大体午前様なのだそうで、そこから自分のごはんを作るから、レンジ活用の時短モノが多いのだとか。なるほど、となんだか納得してしまった。
それでもその時間に帰宅して、律儀に自炊するとは偉いなぁと思った。包丁を扱う手つきなども手馴れたものだ。
ご飯も「めんどくさい」で適当に済ませてるのかと思ってた、と言ったら、笑って、夕食以外はイメージ通りだと思う、と返された。
夕食くらいは、と芽衣さんも意識して作っているらしい。
その夕食も午前様で食べているということだから、身体にいいかと言われると疑問なのだが。
一緒に台所に立ちながら、『新婚さんみたいだね』なんて、前は言えていたはずのふざけた言葉が、どうしても口に出来なくなってしまったことに気付いた。
気恥ずかしさが以前よりぐんと増してしまったことに、自分で少し戸惑った。
そういえば芽衣さんも最近、そういうことを言わなくなったような気がする。
自分と同じように気恥ずかしさを感じてくれているのだとしたら、なんか、いいな、だなんて、都合のいいことを考えた。
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