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でなければ。
今までの時間は、何だったって言うの?
「でも、でも雪斗!」
「くどい」
ぴしゃりと言い放ち、萌貴君を黙らせる。
これ以上は、踏み込ませない。
「あなたの価値観と、周りの価値観は、必ずしも一緒とは限りません。私は──」
「──雪斗?」
突然過ぎる声に、驚いて体をびくりと震わせた。
いつの間に後ろにいたのだろうか。
心臓が緊張で速い鼓動を打つ。
雪斗は振り向かないまま、その人物に声を掛けた。
「──明良? 見回りですか?」
ここは、立ち入り禁止区域のすぐ近く。
今の時間、明良が見回りに来るのもおかしくなかった。
ドアも開けっ放しで、会話を簡単に聞かれる状況に今更ながら気付いてぞっとする。
「ああ。……雪斗に、萌貴か? 何でここに、ふたりで……?」
明良が訝しげに問い掛ける。
その声には微かに焦りが滲んでいた。
明良は、萌貴君が好きだった筈だ。
ふたりで、を最後に持ってきたあたり、雪斗との仲を疑っているかもしれない。
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