7、結果発表とその後

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何故なら、泣くことなど雪斗には、既に不可能なことだったのだから。 泣くというのは、泣く意味があるからこそ出来ることだ。 自分の希望が通る可能性があるからこそ出来ることだった。 雪斗に泣く意味はなかった。泣けば無視されるか、暴力を奮われるかしかない。 泣く意味を失った子供は、泣かなくなる。 泣かなくて手のかからない子供はよくいるが、そんな子供は大抵、赤ん坊の頃親のしつけが適当だったか厳しかったか、どちらにせよ泣いたときに無視されたり過剰に怒られたりした経験がある人間だ。 雪斗は虐待されていた。故に泣かなくなった。泣けなくなった。 そして何故か今も泣けないままだ。 あの赤ん坊は違う。大声で泣けるのは虐待を受けていない証拠だ。 それが羨ましく感じて、悲しくなって、幸せな赤ん坊が悔しくて、そんな自分に苛立っていた。 赤ちゃんに嫉妬してるなんてどうかしてる。 あの赤ん坊が泣き止むまで、雪斗は耳を塞ぎたくて仕方なかった。 けれどやはり雪斗は、その間ずっと無表情のままだった。     ☆ 《これより、新入生歓迎会鬼ごっこの結果発表、および閉会式を行います。進行は僕、放送部副部長の桜井直紀がやらさせて頂きます》
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