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言われなくとも、アイツの優しさは近くで見てきた。
優しくて………優しすぎる程だ。
その優しさ故に、家族に付いて行くべきか迷っていることも。
「夜神に聞きました。貴方たちが広島へ引っ越すって。夜神は、迷ってるみたいですけど。」
「…! そこまで話したんだね、あの子は。」
龍平さんは、どうやら本気で驚いているようだ。
「いつの頃からだろうな。諒が私たちに何も話さなくなったのは。」
龍平さんは窓の外をぼんやりと眺めながら独り言のようにそう言った。
椅子の背もたれに身体を預け、その横顔は憂いを帯びている。
オレはそれをじっと見つめる。
絵になるなぁ…なんて場違いなことを考えながら。
「母親を亡くして、私が再婚して、新しい息子ができて。気づけば、あの子は私たちから遠ざかっていた。私も今の妻も、あの子を疎外するつもりは全くなかったが、あの子は違ったようだ。」
自分が再婚したのは、今の妻に惹かれたこともあるけれど、母親を亡くした諒に、新しい家族を与えてやりたかった。
けれどそれは結局、自分のエゴを押し付けただけに過ぎない。
それをわかっていたから、諒が家から出ていくのを反対しきれなかった。
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