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他には誰もいない階段で、オレの声が静かに響いた。
夜神は驚いたように目を瞠り、それから再び一気に表情を険しくした。
「何を…」
「家族と暮らせよ。本当はお前もそうしたいんだろ?」
何が最善の選択かなんて、実のところわからない。
だから夜神が迷ってるなら、オレはオレが良いと思う方にしか背中を押してやれない。
でも、夜神が家を出た理由、そして夜神の父親の思いを聞いてしまった以上、オレにはこうして家族と暮らすことを勧めずにはいられない。
「俺は付いて行かねぇっつった。」
「でも、迷ってたんだろ? 迷ってたってことは、お前の中にも家族を選びたい気持ちはあったんだろ。」
「アキ、」
「オレはお前が家族に付いて広島まで行くのを選んでも、お前を責めたりしない。“silver moon”の人達だって、お前が黙っていなくなったりしない限り、その選択を否定したりしないよ。」
「───アキ!!」
あくまで家族に付いて行かせようとするオレに、ついに夜神が大声を上げた。
階段に佇むオレを、踊り場に立つ夜神が鋭く睨む。
今まで幾度か見せてきた、冷たい怒りじゃない。
グッと眉を寄せ、何かを堪えているような───どこか悲しそうな顔。
「アキは…自分の言ってることがどういうことかわかってんのか?」
「わかってるよ。」
「わかってねぇだろ。俺が親父たちと暮らすってことは、アキと離れるってことだ。」
「…うん。」
「広島なんかに行けば、もしかしたらずっとそこに住むことになるかもしれねぇ。俺は一日会わなかっただけでも、アンタに会いたくて堪らなくて、時間なんか関係なしにアンタに会いに行ったってのに───」
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