3話:母からの手紙――匣の中

9/9
前へ
/23ページ
次へ
すっぱりと瞬殺され、彗は殺気込めて中型犬サイズになった視を睨めつける。 が、とびきりの笑顔でスル―された。 箸にも棒にもかからないとは、正にこの事だ。 〈ああ、その事でしたら心配ありませんよ。こんな感じでコンバートしますから〉 嬉しそうに言って、視はその場で犬の形を歪ませる。 〈あの形は弊害が多いので緊急用、いつもはこうして擬態していたんですよ〉 飴細工のように熔けていた視が形をとった時、再び顕れたのは毛皮と同じ鮮烈な銀色――。 だ・か・ら、と語尾にハートをつけて、銀髪少年がちょこんと愛らしく首を傾げる。 「視、なの?」 〈はい。これではダメ……ですか?〉 【オイぃ! なに絆されてんだよ天音ええっ】 「五月蠅いよ彗、滅されたい?」 ギャンギャンと騒ぐ彗に嫌な顔をして、天音は鼻先寸前にお札を突きつける。 すると、彗は面白いくらいに青褪めた。 【ヒッ、扱いヒドッ!】 〈というわけで、末永く宜しくお願いしますね、天音さま〉 銀色の中型犬が座っていた位置そのままに現れた少年に、天音はやや間を空けてから『イケメン』と小さく呟き、頬を染めたのだった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加