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【な、なんだよこれ…】
そのまま白の洪水に吸い込まれてしまうと、やがて何かが淡く光っているの気がついた。
手を伸ばすと、それは自分の胸が淡く燈っているのだと解った。
胸の、いや――――この場合は心と呼ぶべきか。
薄い膜の向こうに、淡い光を帯びた鍵が浮かんでいるのが見えた。
手を伸ばして触れると、鍵は細かな粒子となって爆ぜ、隔てる膜を溶かして吸収されていく。
魂という器に感情が溜まって、記憶が彩〈いろ〉を取り戻していく気配がじんわりと波紋を描いて。
今やっと思い出したそれは、甘く・時に苦しみを与えるものだと、不思議な程 すんなり理解することができた。
伴ってなのか、眦に涙を残して微笑んだ天音を離したくないと思った。
§
【天音。俺、1つ思い出したみたいだ】
「よかったじゃない、これで(成仏まで)一歩近づい…」
天音は云いかけて、思わず息を呑む。
夜半の、深く蒼い闇の中。目を閉じたままの彗の身体が、まるで蛍のような淡い光を帯びていたからである。
「彗、もしかしてこれ…記憶の欠片? こんなの、初めて見るわ…」
不定形でいて、円く滑らかな質感のそれ。
光の粉を撒くように発光する欠片は、淡い黄色から緑、青に色を変えていく。
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