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「よかった、思い出せたのね…」
【ああ、ほんの少しだけなんだけどな】
「そう。でも早く仕舞った方がいいわ…妙なのが寄ってきたら大変だから」
天音の気遣うような口振りに、彗はどぎまぎして頬を赤らめる。
彗自身は気付いていないが、天音の表情はどこか『イタイ者』を見る目であった。
【おう。じゃ、そうすんな…】
「わっ」
掌にある欠片を呑みこんだ瞬間、彗の身体を虹色の光の奔流が飲み込む。
様々な色の光が、明滅しては弾けていくのは花火のようだ。
(どうせなら、このまま成仏してくれないかしら…)
「……」
やがて明滅が収まった彗は、天音の反応が来ないのをいい事に首筋に廻した腕に力を込めた。
【あれ、嫌がんない。なんか嬉しいかも。でも、どうして? どうして?】
少しは気を許してくれたのかもしれないと都合のよいように解釈して喜ぶ彗だが、天音に至っては、単に忙しくて面倒なので放っといているだけである。
決して、気を許した訳ではない。
勘違いが招いた油断が、彼の顛末を決めた瞬間だった。
「ふんっ、天誅!!」
【んだあああ――――…っ!】
調子に乗って唇を突き出した彗の顔面を、反射的に天音の拳が殴り伏せる。
殴られた彗といえば、痛みのあまり芋虫のごとく床でのた打ち回っている状況だ。
【天音、オレ頑張ったのに酷い!】
「もっと頑張って、早く肉体に戻ってくれなきゃ困るんだからねっ」
【うわ酷っ、非道いよ天音~…】
…とまぁ、相も変わらず2人はこんな感じの様子である。
何だかんだあっても、そう簡単に溝は埋まらないようだった。
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